Otter Picturesの短編映画『灯火』 「自分たちの作品を作りたい」その想いで駆け抜けた当時を語る
5年の時をこえ、「MIRRORLIAR FILMS plus」で上映された短編映画『灯火』
映画プロデューサーの伊藤主税、阿部進之介、山田孝之らが立ち上げた短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」。映画監督や俳優、各種クリエイターに一般公募からの選定クリエイターを含む総勢36名の短編映画を、4シーズンに分けて劇場公開していく企画だ。
ここに、ひとつの新規プロジェクトが加わった。その名は、「MIRRORLIAR FILMS plus」。公募枠から漏れてしまった407作品の中から、個性が際立つ10作品を新たにラインナップしたものだ。そこに選出されたのが、イラストや3DCGを手掛ける株式会社MUGENUPが制作した『灯火』(2016)。
『灯火』を制作した彼らは、後に西山理彦を中心としてMUGENUP社内に映像クリエイティブチーム「Otter Pictures」を立ち上げることになる。TVCMや広告映像を手掛けつつ、自ら短編映画『diff』を制作。2021年の「フィリップ・K・ディック フィルムフェスティバル」では「Best Eschaton Singularity and Beyond Short」受賞するなど幅広く映像業界で活躍している。その彼らは、2016年当時に何を思い、本作を創り上げたのか。そして5年後の2021年、本作が劇場公開されることに決まり、どんな印象を持ったのか。藤森圭太郎監督、プロデューサー・編集:西山理彦、撮影監督:らくだ、脚本:高橋知由の4人が、当時と今を語り合う。
藤森圭太郎(ふじもり・けいたろう)
1985年生まれ。主な監督作に『diff』(SSFF & Asia 2020ジャパン部門選出、The Philip K Dick Film Festival 2021 Best Eschaton, Singularity and Beyond Short受賞)や、2020年にAmazon Prime Videoで独占配信された新作歌舞伎、図夢歌舞伎『弥次喜多』(共同監督)がある。
西山理彦(にしやま・みちひこ)
…1984年生まれ。CMやVPのほか、伝説的アニメ『The World of GOLDEN EGGS』等の企画・制作に携わり、2013年より株式会社MUGENUPに参加。2017年にOtter Picturesを設立。
らくだ
…1982年生まれ。宮本敬文氏、レスリー・キー氏に師事。独立後は写真家、映像カメラマンとしてTVCMやMV、広告グラフィックなど様々なジャンルに携る。その場の空気感を巧みに映像に落とし込み、柔らかいトーンの作品からシャープなトーンの作品まで多様な表現を得意とする。海外案件も多く、国内外問わず活動中。
高橋知由(たかはし・ともゆき)
…1985年生まれ。映画監督の濱口竜介・野原位と結成した脚本ユニット「はたのこうぼう」のメンバー。『ハッピーアワー』(15)等の脚本を手掛ける。
Otter Pictures 公式ページ
https://otterpictures.jp/
「MIRRORLIAR FILMS plus」公式ページ
https://films.mirrorliar.com/plus/
「自分たちの作品をつくりたい」
その想いを胸に、『灯火』は企画からわずか2週間で撮影された
――『灯火』は2016年に制作された短編ですが、どのような経緯で生まれたのでしょう?
西山
当時はまだOtter Picturesを設立する前のタイミングで、広告についてはそれぞれのメンバーで作ることができるだろう、じゃあやっぱり自分たちの作品を何か作らないとねと話していました。ちょうどその時期はハイスペックな民生機やフリーランスの人でも購入できる撮影機材がどんどん出てきたタイミングでもあったのですが、そんな時にある録音機器のメーカーから「短編を作ってコンペに出してみませんか」というお話をいただいたんです。そこで、有志を集めて作品を作ることにした、という流れですね。
――物語については、どういった部分が発想のきっかけになったのですか?
藤森
西山さんからお話をいただいたときに、2週間後にはコンペに提出しないといけないという状況で、あまりじっくり考える余裕はなかったんです(笑)。録音機器のメーカーからのお話ということで、まずは“音”から企画を立ち上げるわけですが、物語の着想でいうと、ある方のインタビューを読んだことがきっかけですね。亡くなったお父さんのことを話した内容で、アウトドア好きの父親に子どものころよくキャンプに連れて行ってもらい、父親が身につけていた服や帽子など、その思い出や記憶の鮮明さが面白いと感じたんです。そこで、「亡くなった人に会いに行く」という内容になりました。
――“音”というところだと、鈴が印象的に登場しますね。
高橋
鈴のモチーフは、実は脚本を書いている中で最後に出てきたんですよ。
僕自身は、『diff』とも通じますが、森の中に自分よりも年下のお父さんがいるというアイデアが面白いと感じていました。ちょうど(藤森)圭太郎さんに子どもが生まれて親になるタイミングでもあったんです。自分の両親が親になった年齢よりも、もう年上になってしまったんだなだとか、写真にうつる当時の両親が年下に見えるという感覚だとか、そういったものが影響している気がします。
映像は、その時々の人の姿が残り続けるものですよね。亡くなった人も映像の中では生き続けるというか、そういった面白さを役者さんに体現してもらえたらと考えていました。
――『diff』では『インターステラー』(2014)や『月に囚われた男』(2009)といった参考作品がありましたが、『灯火』においてはいかがですか?
高橋
無意識的に影響を受けているのは、『灯火』を制作するちょっと前に公開された『岸辺の旅』(2015)ですね。あれも死者が生者に会いにくる話なんですがホラー的ではなく、いたって普通に日常の中に存在している。
藤森
高橋くんとの会話の中で、『スモーク』(1995)の話が出たことを覚えています。あの作品の中に、「雪山で遭難して亡くなった父親は、時が経って偶然息子に遺体を発見される。長年氷漬けになったため息子は自分よりも若い父親に再会する。」というエピソードがあるんですよね。
高橋
ああ、話しましたね。
――ちなみに、脚本はどれくらいの時間で作り上げたのでしょう?
高橋
1日ぐらいです(笑)。
――1日! じゃあそこからロケハンに行って……。
藤森
時間も予算もなかったから、“森・一択”でした(笑)。でも、理想の森探しが簡単にはいかず、良い地形や水辺を求めていたらどんどん森に迷い込んだという……(笑)。
らくだ
ロケハンは、僕が以前に別の仕事の撮影で訪れた場所で『灯火』に合う森があったので、改めてそこに行きましたね。
西山
その森でなんとなく「これが良い」という吊り橋を見つけて、撮影部と藤森監督がその付近のキャンプ場に前泊していた記憶があります。
藤森
出演者の柳谷一成くんが「撮影前に山に籠りたい」と言っていたので、みんなで一緒にテントを張って泊まりましたね。
――冒頭の吊り橋の空撮シーンが非常に印象的でしたが、初期段階から構想はあったのでしょうか。
西山
ちょうどドローンが出たての時期だったんですよ。他の広告作品でもドローンを使っていたので、こちらでも取り入れました。
藤森
生と死の境界線が欲しくて、“川”というモチーフとそれを渡るもの、という意味で吊り橋を印象的に見せる必要があった、というのはあります。
――撮影においては、事前に打ち合わせを重ねてから臨んだのでしょうか。それとも、時間がないなかだったから撮りながら探っていく感じだったのでしょうか。
らくだ
その場の直感を大事に撮っていった部分はありましたね。そもそも僕は『灯火』を撮るまで写真がメインで、お話のある映像をやったことがなく、前後のシーンの“つながり”などもわからない状態だったんです。そういった意味では、色々な経験をさせていただきました。小さな橋が架かっていたのですが、木が腐っていて橋から落ちたりもして(笑)。
藤森
あったあった(笑)。
――編集段階での印象的なエピソードはありますか?
西山
元々出す予定だったコンペが3分以内の映像だったのですが、どうやっても10分弱になってしまって出すのを辞めたことですかね(笑)。
高橋
脚本自体はA4で2枚だったから、3分以内を目指してはいましたよ(笑)。
世に出せていないことがずっと引っかかっていたが、
ついに「MIRRORLIAR FILMS plus」で上映されることに。
――その後、2020年に募集開始した短編映画製作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」に応募したのですね。
藤森
はい。「MIRRORLIAR FILMS」は応募要項が珍しくて、過去の作品でも送ることができたんです(「“変化”をテーマにした5~15分の作品」であれば、製作時期や年齢、職業は不問)。『灯火』を世に出せていないことにずっと引っかかってはいたので、ちょうどいい機会だと思い応募しました。
――「MIRRORLIAR FILMS」の選定クリエイター枠12本からは惜しくも漏れてしまいましたが、選外の407作品の中から、新たに10本が選出され「MIRRORLIAR FILMS plus」として上映されることになりました。作品の面白さが、当初なかった動きを生み出したともいえます。
藤森
プロデューサーの阿部進之介さんが「ここに並んでいるのは選ばれなかった作品達だ。でも選ばれた作品達でもある」とコメントされていました。
もともと「MIRRORLIAR FILMS plus」は、予定されてなかったプロジェクトだと聞いています。しかし、まさに阿部さんのコメントにあるとおり「選ばれなかった407作品の中から選んでいただいたわけで、一般応募の419作品を全部ちゃんと観てくれているんだなと思いました。それはとても嬉しかったですね。
西山
確かに。ちゃんと届いていることが嬉しかったですね。
そして藤森監督といっしょに作った『diff』も、先日のフィリップ・K・ディック フィルムフェスティバル(NYで2012年に設立されたSF映画祭)で「Best Eschaton Singularity and Beyond Short」(パラダイムシフトをテーマにした作品を表彰する賞)を受賞しました。今年のってるなと思います。
らくだ
この作品でお話ものを撮って以降、広告などの案件も関わるようになったので、幅が広がるきっかけになった作品だと思います。それに劇場でかかることは素直に嬉しいですね。こういう機会がないと自分の作品をなかなかちゃんと観直すことはないし、改めて見直してみて、昔の作品に刺激を与えてもらった気がします。
僕が覚えているのは、撮影終了後、オフライン編集版(仮編集段階のもの)を観た僕の師匠である写真家・宮本敬文さんが、連絡をくれたことです。その際に「すごくいいじゃないか」と言ってくれて、カラコレ(カラーコレクション。色彩の補正作業のこと)について「あまりいじくらないほうがいい」とアドバイスをくれたんですよね。完成前に敬文さんは亡くなってしまったのですが、たまにしか褒めない敬文さんに褒めていただいたことは、自分の中でも大切な思い出です。
――『DIVOC-12』や『アクターズ・ショート・フィルム』も含め、短編映画の制作プロジェクトの流れが来ているようにも感じます。個人的には『Jam Films』(02)の頃を思い出したりしましたが、皆さんはいかがでしょう?
高橋
『Jam Films』のときと異なるのは、コンセプトが立っている短編映画が増えてきていると思います。若手の映像作家や、映像をやりたい人にとっては「MIRRORLIAR FILMS」はとても魅力的な企画だと思います。短編だと、自分の名刺代わりに配ることもできれば映画祭に持っていくこともでき、切り分けて配信もできる。そういったメリットはありますね。
あとは、短編集は良くも悪くも作品ごとの個性が際立ち、いろんな方向に尖っているため、お客さんがどれくらいついてきてくれるかだと思います。海外のコンペで賞を獲った、というような事象が出てくれば、また流れはわかっていくようにも感じます。
藤森
「こうしないと撮れない」「こうやって撮るべきだ」に縛られず、自分のやり方で作品を発表できる機会が増えてくるのは良いことですよね。今回公開してもらえることは、自分のやり方が一つ認めてもらえたようで、嬉しいです。
――先日はアップリンク吉祥寺で舞台挨拶にも立たれていましたね。実際に劇場で上映された短編集を見られたと思いますが、そのご感想や、今後に向けたコメントをお願いします。
西山
短編集の上映ということでいろんな作品を見ましたが、そのなかで僕たちの作品は、映像の力で作品を見せる作品が撮れたのかなと思いました。『灯火』は時間のない中で走り出した作品ですが、やはり作品作りには勢いも重要かなと。これからもいい作品を作り続けたいと思います。
藤森
「MIRRORLIAR FILMS plus」に対しては、自分たちの作品を見つけていただき本当に感謝しています。『灯火』に関わってくれた皆さんに少しでも恩を返すことができました。そしてやはりこれだけ多くの、しかも作り手の個性が際立つ作品を見ると、とても刺激を受けます。今はもう早く次を撮りたいという気持ちです。今度は長編を作ろうと考えていますが、これからも短編を作り続けたいと思います。